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「固定費を削減せよ」は正しいのか?損益分岐点分析で考える最適な経営戦略

「キャッシュは企業の血液です」

これは、私が大手銀行の融資審査担当として何千もの決算書と向き合う中でたどり着いた、揺るぎない信念です。

佐藤 真由美

多くの経営者様が「まずは固定費の削減から」と考えていらっしゃいます。しかし、その常識は本当に正しいのでしょうか?

結論から申し上げます。固定費削減が有効かどうかは、あなたの会社の損益分岐点の状況によって決まります。

闇雲なコストカットは、時に企業の未来への活力を削いでしまう危険な諸刃の剣です。一方で、適切な固定費削減は損益分岐点を下げ、不況に強い経営体質を築きます。

この記事では、損益分岐点分析という「経営の羅針盤」を用いて、あなたの会社に最適なコスト戦略を見極める方法を解説します。

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目次

なぜ「固定費削減」は安易に語られるのか?

多くの経営者がまず固定費削減に手を付けるのは、その分かりやすさにあります。

まるで、体重計の数字を減らすための「食事制限」のようです。
摂取カロリー(=固定費)を減らせば、消費カロリー(=売上)が同じでも体重が減るように、コストが減って利益が増えていく。
非常にシンプルで、即効性があるように感じられます。

メリット:利益体質への近道という魅力

固定費を削減すれば、その分だけ利益が直接的に増えます。
これは紛れもない事実です。

そして、最も大きなメリットは「損益分岐点」を引き下げる効果です。

損益分岐点とは、利益がゼロになる売上高のこと。
いわば、企業の経営という船が、沈みもせず、前に進むこともない「凪」の状態です。

固定費という船の”重り”を軽くすれば、少しの売上(=追い風)でも船は前に進みやすくなります。
不況という嵐が来ても、赤字という浸水を防ぎやすい、安定した経営体質を築けるのです。

デメリット:見過ごされがちな「やりすぎ」のリスク

しかし、この「食事制限」には大きな落とし穴があります。
やり方を間違えれば、脂肪だけでなく、未来を創るための大切な”筋肉”まで削ぎ落としてしまうからです。

私がコンサルタントとして見てきた、あるA社長のケースをお話ししましょう。

A社長は業績不振に悩み、「聖域なきコストカット」を断行しました。
まず、営業部門の人員を削減し、広告宣伝費をゼロに近づけました。

その結果、何が起きたか。

オフィスの空気は、目に見えて重くなりました。
残された社員たちの顔からは活気が消え、新しい挑戦を口にする者はいなくなりました。
会社の未来を語る声が聞こえなくなり、ただ目の前の業務をこなすだけの、冷たい時間が流れるようになったのです。

確かに、短期的には利益が出ました。
しかし、それは未来の成長という”筋肉”を切り売りして得た、見せかけの利益に過ぎませんでした。
数年後、A社長の会社は、市場での存在感を失い、静かに事業を縮小していったのです。

経営の羅針盤「損益分岐点分析」を使いこなす

では、どうすればA社長のような過ちを避けられるのでしょうか。
そこで登場するのが、損益分岐点分析という「経営の羅針盤」です。

難しく聞こえるかもしれませんが、心配はいりません。
あなたの会社の健康状態を把握するための、シンプルなツールです。

まずは基本から!固定費・変動費・限界利益とは?

会社の費用は、大きく2種類に分けられます。

固定費

売上の増減に関わらず、毎月決まって出ていくお金です。(例)事務所の家賃、社員の基本給、減価償却費、リース料など。会社の心臓を動かし続けるための、基礎的なエネルギーと考えてください。

参考: 事務所家賃が払えない場合

変動費

売上の増減に比例して変わるお金です。(例)商品の仕入原価、販売手数料、外注費、残業代など。売上という活動量に応じて消費されるエネルギーです。

限界利益

そして、もう一つ重要なのが「限界利益」です。

限界利益 = 売上高 - 変動費

これは、商品を1つ売ることで、新たにどれだけの「儲け」が手元に残るかを示す数字です。
この限界利益が、まずは固定費という大きな山を乗り越え、その先に初めて「純粋な利益」が生まれるのです。

【視覚で理解する利益の構造】

【売上高 1,000円】
       │
       ├─【変動費 400円】
       │
       └─【限界利益 600円】
                 │
                 ↓(この儲けで、まず固定費を支払う)
                 │
             【純粋な利益 ✨】

自社の健康診断!損益分岐点売上高の計算方法

さあ、あなたの会社の損益分岐点、つまり「トントン」になる売上高を計算してみましょう。
計算式は驚くほどシンプルです。

損益分岐点売上高 = 固定費 ÷ 限界利益率
(※限界利益率 = 限界利益 ÷ 売上高)

例えば、あなたの会社が以下の状態だとします。

  • 固定費:月300万円
  • 変動費率:60%(売上の60%が変動費)
  • 限界利益率:40%(1 – 0.6)

この場合の損益分岐点売上高は…

300万円 ÷ 0.4 = 750万円

つまり、月に750万円の売上を達成して、初めて利益がゼロになるということです。
751万円の売上から、ようやくあなたの会社に利益がもたらされます。

佐藤 真由美

ぜひ、お手元の決算書から自社の数字を当てはめてみてください。
Excelやスプレッドシートを使えば、簡単にシミュレーションできます。

損益分岐点分析の図解

【本題】損益分岐点から考える「固定費削減」の是非

損益分岐点という羅針盤を手に入れた今、いよいよ本題です。
あなたの会社は、固定費を「削減」すべきか、それとも「投資」すべきか。
2つの対照的なケースを見ていきましょう。

ケーススタディ1:固定費削減が有効な企業の特徴

先ほどの例(損益分岐点売上高750万円)で、もしあなたの会社の平均的な月商が800万円だとしたら。
損益分岐点比率(損益分岐点売上高 ÷ 売上高)は 93.75% となり、非常に危険な水準です。

少しでも売上が落ち込めば、すぐに赤字に転落してしまう、綱渡りのような経営状態。
このような損益分岐点比率が高い企業や、売上の変動が激しい業種の企業は、固定費の削減が有効な処方箋となります。

具体的な打ち手
  • オフィスの見直し: 賃料の安い場所への移転、規模の縮小、一部をサテライトオフィスやリモートワークに切り替える。
  • 業務のアウトソーシング: 経理や総務などのノンコア業務を外部の専門家に委託する。
  • サブスクリプションの棚卸し: 利用頻度の低いITツールやサービスを解約する。

これらは、事業の根幹を揺るがすことなく、船の”重り”を軽くするための賢明な選択です。

ケーススタディ2:固定費への投資が有効な企業の特徴

一方で、私が再建をお手伝いしたB社長の会社は、全く逆のアプローチでV字回復を遂げました。

B社の事業は、高い技術力と品質が求められる製造業。
赤字に苦しんでいましたが、損益分岐点分析を行った結果、B社長は驚きの決断をします。

銀行から新たに融資を受け、最新の生産設備を導入したのです。

減価償却費という「固定費」は増えました。
しかし、その結果、生産効率が劇的に向上し、製品1個あたりの変動費(材料費や人件費)が大幅に減少
つまり、限界利益率が大きく改善したのです。

以前より低い売上でも、より多くの利益を生み出せる筋肉質な体質へと生まれ変わりました。
さらに、品質向上によって顧客からの信頼が高まり、結果的に売上も増加するという好循環が生まれたのです。

このように、高い付加価値やブランド力が求められる事業や、規模の経済が働く装置産業などでは、短期的なコスト増を恐れず、戦略的に固定費へ投下することが、未来の大きな成長に繋がります。

固定費を「減らす」から「コントロールする」へ

A社長とB社長の物語が示すように、固定費は善でも悪でもありません。
重要なのは、それを「減らす」か「増やす」かの二元論ではなく、自社の戦略に合わせて「コントロールする」という視点です。

注目される戦略「固定費の変動費化」とは?

そのコントロール手法として、今、最も注目されているのが「固定費の変動費化」です。
これは、これまで固定費として抱えていたものを、必要な時に必要なだけ支払う「変動費」に変えるという考え方
不確実性の高い現代において、経営の柔軟性を高める非常に有効な戦略です。

変動費化の具体的手法と実践例

私のコンサルティング現場でも、多くの企業がこの手法を取り入れています。

  • 【人材】 → 正社員で抱えるのではなく、繁忙期や専門業務を業務委託契約のプロフェッショナルや派遣社員で補う。
  • 【設備】 → 自社で工場を持たず、生産を外部に委託するファブレス経営。サーバーを自社で保有せず、クラウドサービス(AWS、GCPなど)を利用する。
  • 【オフィス】 → 本社機能だけを残し、社員はリモートワークやフレキシブルオフィスを主体にする。

これらの手法は、売上の波に合わせてコストを最適化し、損益分岐点を柔軟に動かすことを可能にします。

よくある質問(FAQ)

Q: 固定費削減に着手するなら、まず何から手をつけるべきですか?

A: まずは聖域を設けず、全ての固定費をリストアップすることから始めましょう。そして、金額の大小だけでなく「事業の根幹を支える費用か否か」という軸で優先順位をつけます。一般的には、効果が大きく業務への影響が少ない通信費や光熱費、利用実態のないサブスクリプションサービスの見直しから始めるのが定石です。

Q: 人件費は固定費ですか?変動費ですか?

A: 会計上、正社員の基本給や福利厚生費は「固定費」、残業代や販売インセンティブは「変動費」と考えるのが一般的です。経営戦略を練る上では、この固定費部分である人件費を、いかに企業の成長に繋がる「投資」としてコントロールしていくかが経営者の腕の見せ所です。

Q: 固定費を変動費化する際の注意点はありますか?

A: はい、注意すべきリスクもあります。アウトソーシングの多用による品質管理の低下や、自社にノウハウが蓄積されない問題。また、非正規雇用の多用による従業員のエンゲージメント低下などです。自社の「コア業務(強みの源泉)」と「ノンコア業務」を明確に切り分け、何を内製し、何を外部に頼るか、慎重に計画することが不可欠です。

Q: 損益分岐点分析は、赤字の会社でも役に立ちますか?

A: もちろんです。むしろ、赤字の会社にこそ、この羅針盤が必要です。損益分岐点分析は「あと、いくら売上を伸ばせば黒字化するのか」「どの費用を、どれだけ削減すれば黒字化するのか」という具体的な目標を、数字で明確に示してくれます。まさに経営再建の第一歩となる、希望の光を見つけるための分析なのです。

Q: 銀行は企業の固定費についてどう見ていますか?

A: 元銀行員の視点からお答えします。私たちが融資審査で見ていたのは、固定費の金額そのものではありません。その固定費が、未来のキャッシュフローを生み出すための『種』なのか、それとも過去の惰性で残り続ける『澱(おり)』なのかです。

最新鋭の設備投資のように、明確な成長戦略に基づいた固定費の増加は「前向きな投資」として高く評価します。重要なのは、その固定費の必要性を、事業計画で論理的に説明できるかなのです。

まとめ

「固定費を削減せよ」

この言葉は、それ自体が目的ではありません。
あくまで、あなたの会社の利益を最大化し、持続的な成長を遂げるための「手段」の一つに過ぎないのです。

本当に重要なのは、損益分岐点分析という羅針盤を手に、自社のコスト構造と収益性を正しく理解し、「削ぎ落すべき脂肪」と「鍛えるべき筋肉」を見極める慧眼を持つことです。

佐藤 真由美

あなたの会社の通帳に記された「固定費」という数字。
それは、成長を妨げる”重り”でしょうか?
それとも、未来への力強い飛躍に向けた”投資”でしょうか?

企業の血液であるキャッシュフローを健全に保ち、変化の激しい時代を乗り越えるために、ぜひ本記事で紹介した「経営の羅針盤」をご活用ください。

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この記事を書いた人

はじめまして。「資金繰りベスト」ライターの佐藤真由美と申します。埼玉県さいたま市在住の45歳、中小企業の資金繰りと経営管理を専門とするファイナンシャルアドバイザー兼ライターです。

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