こんにちは。元大手銀行で1,000社以上の中小企業様の融資審査を担当してきた佐藤真由美です。
多くの経営者様が「無借金経営こそ理想だ」と信じ、日々懸命に努力されている姿を、私は銀行のデスクからずっと見てきました。その実直な姿勢は、心から尊敬に値します。
佐藤 真由美しかし、その「正しさ」が、あなたの会社を最大の危機に晒しているとしたら、どうしますか?
実は、平時から銀行との取引がない「無借金企業」ほど、いざという時に融資を断られ、黒字倒産するケースは後を絶ちません。これは、現場にいた私だからこそ断言できる、不都合な真実です。
この記事では、なぜ無借金経営が危険なのかという3つの明確な理由と、会社の成長を加速させる「レバレッジ経営」の極意を徹底解説します。
【この記事の結論】無借金経営 vs レバレッジ経営 早わかり比較表
| 比較項目 | 無借金経営 | レバレッジ経営(借入活用) |
|---|---|---|
| 経営の安定性 | 倒産リスクは低いが、緊急時の資金調達が困難で黒字倒産のリスクあり。 | 適度な借入は手元資金を厚くし、不測の事態への対応力が高まる。 |
| 成長スピード | 自己資金の範囲内に限定され、成長の機会を逃しやすい。 | 設備投資などを前倒しでき、事業拡大のスピードが加速する。 |
| 金融機関との関係 | 取引実績がなく、いざという時に「はじめまして」の状態になり融資を断られやすい。 | 平時からの取引で信頼関係が構築され、将来の追加融資がスムーズになる。 |
| 目指すべき姿 | 理想とされがちだが、現代ではリスクも大きい。 | 借入を「てこ」として活用し、ROE(自己資本利益率)を高める戦略的な経営。 |
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なぜ「無借金経営」が危険なのか?元銀行員が明かす3つの落とし穴
1. 緊急時の融資審査が通らない現実
想像してみてください。
ある日突然、大口の取引先が倒産し、売掛金の入金がストップした。
あなたは慌ててメインバンクの窓口に駆け込みます。
「どうか、運転資金を貸してください!」
しかし、担当者の表情は硬い。
なぜなら、あなたの会社はこれまで一度も借入をしたことがなく、銀行にとって、あなたは「はじめまして」の相手と同じだからです。
銀行員は、あなたの会社の決算書を見ます。
しかし、そこにあるのは過去の数字だけ。
私たちは、あなたが毎月きちんと返済してくれる人なのか、約束を守る人なのか、その「人柄」を知りません。
融資審査とは、いわば「未来への信頼」を審査するプロセスです。
平時から少額でも借入と返済を繰り返すことで、「この会社は、きちんと約束通り返済してくれる」という信頼の履歴、クレジットヒストリーが積み上がります。
その履歴がない企業への新規融資は、銀行にとって非常に大きなリスクを伴うのです。
いざという時に「はじめまして」では、あまりにも遅い。
これが、現場のリアルな感覚です。
2. 成長の機会損失という最大のリスク
私が銀行員時代に出会った、ある町工場の鈴木社長(仮名)の話をさせてください。
彼の工場は、高い技術力で評判でした。
しかし、彼は「無借金」を誇りにしており、自己資金の範囲で堅実に経営していました。
ある年、海外の展示会で彼の技術が大手メーカーの目に留まり、「生産ラインを倍にできれば、大型契約を結びたい」という千載一遇のチャンスが舞い込みます。
設備投資には、1,000万円が必要でした。
彼は悩みました。
初めての借金に、恐怖を感じたのです。
彼が躊躇している間に、その契約は借入を即決したライバル企業に奪われてしまいました。
数年後、私がお会いした時、彼は寂しそうにこう言いました。
「もしあの時、あと1,000万円を借りる勇気があれば、会社の未来は全く違っていたかもしれない…」
これは、決して特別な話ではありません。
自己資金という枠の中に自らを閉じ込めてしまうことは、未来の利益を捨てているのと同じなのです。
借入は、未来の可能性を買うための「切符」にもなり得ます。
3. 資金繰りの悪化が黒字倒産を招く
「利益は出ているのに、支払いができない」。
これが、経営者が最も恐れる「黒字倒産」です。
無借金経営の会社は、手元のキャッシュに余裕がないことが少なくありません。
会社の血液が、常にギリギリの状態で流れているようなものです。
そんな状態で、もし売掛金の入金が1ヶ月遅れたら?
もし、急な修理でまとまった支払いが必要になったら?
途端に血液の流れは滞り、会社という身体は動かなくなってしまいます。
心臓が、止まるのです。
利益という「体力」があっても、キャッシュという「血液」が流れなければ、会社は生き残れません。
適度な借入によって手元資金に厚みを持たせておくことは、こうした不測の事態に備えるための、最も有効な「輸血パック」なのです。
企業の成長を加速させる「レバレッジ経営」とは?
では、借金をすれば何でも良いのか?
もちろん、違います。
重要なのは、借入を企業の成長のための「てこ」として戦略的に活用する、「レバレッジ経営」という考え方です。
1. 「てこの原理」で自己資本利益率(ROE)を高める仕組み
「レバレッジ」とは、日本語で「てこ」を意味します。
小さな力で、大きな岩を動かす、あの原理です。
これを経営に当てはめてみましょう。
- 小さな力 = あなたの会社の自己資本
- 大きな岩 = 生み出したい大きな利益
- てこ = 銀行からの借入金(他人資本)
簡単な図で見てみましょう。
【自己資本だけで頑張る場合】
(あなたの力)→→→ [生み出せる利益]
【レバレッジを効かせる場合】
(あなたの力)▼(借入金という長い棒)=======[大きな利益]
このように、借入金という「てこ」を使うことで、自己資本だけで経営するよりも、はるかに大きな利益を生み出すことが可能になります。
この、自己資本に対してどれだけのリターンを生み出せたかを示す指標が「ROE(自己資本利益率)」です。
レバレッジ経営は、このROEを劇的に高めるための、極めて有効な戦略なのです。
2. レバレッジ経営の具体的なメリット
レバレッジ経営には、ROEの向上以外にも、経営者が知っておくべき3つの大きなメリットがあります。
事業拡大のスピードアップ
自己資金が貯まるのを待っていては、ビジネスチャンスはあっという間に過ぎ去ります。
レバレッジを効かせることで、設備投資や人材採用を前倒しで実行でき、他社を圧倒するスピードで事業を成長させることが可能です。
節税効果
これは意外と知られていませんが、銀行に支払う利息は、経費として損金に算入できます。
つまり、支払利息の分だけ課税対象となる利益が減り、結果として法人税の節税に繋がるのです。
金融機関との信頼関係構築
先ほどもお話しした通り、適度な借入と返済実績は、銀行との信頼関係を築く上で何より重要です。
この信頼は、将来さらに大きな融資が必要になった際の、強力な「無形の資産」となります。
3.【要注意】危険なレバレッジと健全なレバレッジの見極め方
もちろん、過度な借入は金利負担を増やし、会社の首を絞めることになります。
では、どこが「健全」と「危険」の境界線なのでしょうか。
私たち銀行員が融資審査で必ず見る、プロの「モノサシ」を2つ、特別にお教えします。
ぜひ、あなたの会社でも計算してみてください。
モノサシ①:債務償還年数
これは、「今のキャッシュフローで、借金を何年で返せるか?」を示す指標です。
債務償還年数 = 有利子負債 ÷(税引後利益 + 減価償却費)
一般的に、この年数が「10年以内」であれば健全と判断されます。
もし15年、20年と超えてくるようであれば、少しレバレッジをかけすぎ(借入が過剰)かもしれません。
モノサシ②:借入金月商倍率
これは、「月商の何か月分の借入があるか?」を示す指標です。
借入金月商倍率 = 借入金 ÷ 平均月商
業種にもよりますが、一般的に「3〜6ヶ月程度」が適正範囲と言われています。
これを超えると、売上に対して借入のバランスが悪いと見られる可能性があります。
この2つのモノサシを使い、自社の立ち位置を客観的に把握することが、健全なレバレッジ経営への第一歩です。
元銀行員が伝授!融資を成功させるための3つの鉄則
「レバレッジ経営の重要性は分かった。でも、どうすれば銀行から融資を受けられるんだ?」。
そんな声が聞こえてきそうです。
ご安心ください。融資審査の現場にいた私が、銀行員に「この会社なら貸したい」と思わせるための鉄則を3つ、お伝えします。
1. 資金使途と返済原資を明確に語れるか
融資の面談で、経営者の方が「いくら借りられますか?」と質問することがあります。
実はこれ、銀行員からすると最も困る質問なのです。
私たちが知りたいのは、たった2つ。
「借りたお金を、何に使うのか(資金使途)」
「そのお金を、何で返すのか(返済原資)」



例えば、「新しい機械を買って生産性を上げ、その結果増える利益で返済します」というように、ストーリーで語ることが重要です。
そして、「返済原資」は、専門的には「税引後利益+減価償却費」で計算されるキャッシュフローです。
この数字をしっかり把握し、「私たちの会社には、これだけの返済能力があります」と具体的に示すことが、信頼獲得の鍵となります。
2. 説得力のある事業計画書を作成する
事業計画書は、あなたの会社の未来を描く「設計図」であり、銀行への「ラブレター」です。
なぜ今、資金が必要なのか。
その資金で、会社はどのように成長するのか。
そして、売上や利益はどのように増えていくのか。
特に私たちが注目するのは、「売上計画の根拠」です。
「頑張ります」という精神論ではなく、「取引先A社から、これだけの受注内示が出ています」「この新商品には、これだけの市場規模が見込めます」といった、客観的な事実やデータに基づいた説明が、計画の説得力を飛躍的に高めます。
3. 平時から金融機関と良好な関係を築く
融資は、困ってから駆け込む「救急外来」ではありません。
日頃から健康状態を共有する「かかりつけ医」のような関係を築くことが大切です。
お金を借りる用事がなくても、試算表ができあがったタイミングで銀行に持参し、「今月はこんな状況です」と報告する。
たったこれだけでも、銀行員のあなたに対する理解度は格段に深まります。
もしあなたが埼玉県で事業を営んでいるなら、地元の信用金庫や商工会にも積極的に顔を出してみてください。
彼らは地域経済のサポーターであり、あなたの会社の良き理解者になってくれるはずです。
いざという時に、親身に相談に乗ってくれる存在は、何よりの財産になります。
よくある質問(FAQ)
Q: 目指すべきは「実質無借金経営」と聞きましたが、どういう意味ですか?
A: 実質無借金経営とは、借入金はあるものの、それを上回る現預金を手元に保有している状態を指します。これにより、金融機関との取引実績を維持しつつ、財務的な安全性を確保できます。いざという時の融資も受けやすく、事業拡大のチャンスも逃さない、中小企業が目指すべき理想的な財務状態の一つです。
Q: 赤字決算だと、絶対に融資は受けられないのでしょうか?
A: 必ずしもそうとは限りません。一時的な赤字であっても、その原因が明確で、今後の改善策を盛り込んだ説得力のある事業計画書を提示できれば、融資を受けられる可能性はあります。銀行は過去の実績だけでなく、将来性も評価します。例えば、赤字の理由が先行投資によるものであれば、将来の黒字化を合理的に説明することが重要です。
Q: どのくらいの借入額が適正なのか分かりません。目安はありますか?
A: 一概には言えませんが、先ほどご紹介した「債務償還年数が10年以内」、または「借入金月商倍率が3〜6ヶ月程度」が一つの目安です。ただし、業種や成長ステージによって大きく異なるため、まずは取引金融機関に相談し、自社の状況を客観的に診断してもらうことをお勧めします。
Q: 日本政策金融公庫と民間銀行の融資の違いは何ですか?
A: 日本政策金融公庫は政府系の金融機関で、創業支援や中小企業支援を目的としているため、民間銀行に比べて実績の少ない事業者でも融資を受けやすい傾向があります。一方、民間銀行は長期的な取引を通じて企業の成長を支える役割を担います。まずは公庫で実績を作り、その後民間銀行との取引を拡大していくのが一般的なステップです。
Q: 融資の際に、担保や保証人は必ず必要ですか?
A: 近年は、経営者保証に依存しない融資も増えてきています。特に、信用保証協会の保証を利用した「保証協会付融資」や、日本政策金融公庫の「新創業融資制度」などでは、無担保・無保証人で借りられる場合があります。ただし、企業の信用力や事業計画の内容によって条件は変わるため、事前の確認が必要です。
まとめ
「無借金経営=健全」という神話は、もはや絶対的な正解ではありません。
むしろ、企業の成長を妨げ、いざという時のリスクを高める可能性があることを、ご理解いただけたでしょうか。
重要なのは、借金を悪と決めつけるのではなく、企業の成長のための「投資」として捉え、他人資本を有効活用する「レバレッジ経営」の視点を持つことです。
もちろん、無計画な借入は危険です。
しかし、自社の返済能力というアクセルの踏み加減を理解し、明確な目的地を持ってハンドルを握れば、借入金はあなたの事業を力強く前進させるための、最高のエンジンとなります。
まずは、あなたの会社の「心電図」である通帳と、「健康診断書」である決算書を改めて見つめ直してみてください。
そして、この記事でお伝えした「実質無-借金経営」を目指すことから始めてみてはいかがでしょうか。


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