工事は先月終わったのに、入金は再来月。それなのに材料費と外注さんへの支払いは今月末にやってくる。
建設業の一人親方の資金繰りには、こうした時間差の悩みがつきものです。
こんにちは、山田麻里と申します。中小企業向けの金融コンサルティング会社で資金繰り改善やファクタリング導入支援を担当し、現在は資金調達分野の記事を執筆しています。
結論からお伝えすると、一人親方は確定申告書なしでもファクタリングを利用できる可能性があります。審査の中心は自分ではなく元請の信用力だからです。
山田 麻里ただし、確定申告書を求める会社が多いのも事実で、「独立したばかりで申告書がまだない」「控えをなくした」「そもそも申告していない」のどれに当てはまるかで、取るべき対応が変わります。
この記事では、確定申告書が求められる理由とケース別の対処法、必要書類、安全な会社の選び方を整理しました。




一人親方は確定申告書なしでもファクタリングを利用できる
まず結論の根拠から確認しましょう。ポイントは、ファクタリングの審査が「誰を」見ているかです。
審査の中心は元請(売掛先)の信用力
ファクタリングは、入金待ちの工事代金(売掛金)の請求書をファクタリング会社に買い取ってもらい、期日より早く現金化するサービスです。適正なファクタリングは、原則として売掛債権の売買であり、融資とは異なります。ただし、買戻義務など契約の内容や実態によっては、貸付けと判断される場合があります。
ここが融資との大きな違いです。融資の審査では申込者の返済能力が問われますが、ファクタリングで買い取った売掛金を支払うのは元請です。だから審査の中心は、元請の信用力と売掛金が実在するかどうかに置かれます。
申込者側の書類である確定申告書は、必ずしも審査の必須条件ではない、というわけです。
確定申告書の提出を必須としない会社もある
必要書類は会社によって異なります。請求書・本人確認書類・通帳のコピー(または入出金明細)の基本セットだけで申し込める会社もあり、オンライン完結型や少額特化型のサービスに多い傾向があります。
一方で、確定申告書の提出を求める会社が多いのも事実です。なしで申し込める会社を選ぶか、書類を用意して申し込み先の幅を広げるか。この判断に必要な情報を順に見ていきます。


建設業の一人親方は約51万人。支払サイトの長さが資金繰りを圧迫する
国土交通省の推計(令和元年時点)によると、建設業の一人親方は約51万人で、建設技能者全体の15.6%を占めます(建設業の一人親方問題に関する検討会資料より)。
建設業では、契約条件や請求の締め日により、工事完了から入金までに時間が空くことがあります。材料費や外注費は先に出ていくのに、売上の入金は後になる。この構造が、一人親方にファクタリング需要が生まれる背景です。資金繰りに追われるのは、腕や仕事ぶりの問題ではありません。


ファクタリングで確定申告書が求められる理由
「借入じゃないなら、なぜ確定申告書を出せと言われるのか」。ここを理解しておくと、書類を用意できないときの対処も考えやすくなります。
法人の決算書に代わる「事業実態の証明」だから
法人の審査では、決算書で事業の実態や売上規模を確認します。個人事業主にとって確定申告書は、その決算書に相当する書類です。
ファクタリング会社が確定申告書で確かめたいのは、主に次の3点です。
- 事業が実在し、継続して営まれていること
- 売却したい売掛金が、過去の売上実績と釣り合っていること
- 架空請求や二重譲渡(同じ請求書を複数社に売る行為)のリスクが低いこと
コンサルタント時代の実感として、審査担当者は書類の少ない申込みほど慎重になります。確定申告書は、申込者を疑うための書類ではなく、安心して買い取ってもらうための材料と考えるのが実態に近いです。
求められる場合は直近1〜3年分が一般的
提出を求める会社では、直近1〜3年分が通例です。
青色申告・白色申告のどちらでも申し込める会社はあります。ただし、必要書類や審査での扱いは会社ごとに異なるため、事前に確認しましょう。「白色でやってるから無理だろう」と、最初から諦める必要はありません。
提出できないと審査でどうなるか
確定申告書なしで申し込める会社でも、審査材料が減るぶん条件は変わり得ます。具体的には、初回の買取可能額が少額からのスタートになったり、手数料が高めに設定されたりする傾向があります。



つまり「なしでも使える」と「なしでも同じ条件で使える」は別の話です。出せる状況なら出したほうが、条件は良くなりやすいと考えてください。
確定申告書を用意できない一人親方のケース別対処法
「用意できない」事情は3パターンに分かれます。自分のケースに合った対処法を選びましょう。
独立したばかりで初回の申告前の場合
開業1年目なら、提出できる確定申告書がそもそも存在しません。確定申告書を必須としない会社であれば申し込めます。ただし、開業後の経過期間や入出金実績など、ほかの利用条件を満たす必要があります。
その代わり、仕事が動いている証拠を揃えましょう。請求書に加えて、注文書や元請からの入金実績(通帳の履歴)があれば審査材料を補えます。開業届の控えも事業開始の裏付けとして使える場合があります。
申告済みだが控えを紛失した場合(無料で再取得できる)
申告はしたのに控えが見当たらない。このケースがいちばん簡単に解決できます。国税庁の「申告書等の情報の取得について」で案内されている方法で、提出済みの申告書を再取得できるからです。
| 方法 | 対象 | 手数料 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| e-Taxの受信通知から取得 | e-Taxで申告した人 | 無料 | メッセージボックスから即時ダウンロード |
| 申告書等情報取得サービス | 書面提出でもOK | 無料 | 直近3年分(令和2年分以降)のPDFを取得。マイナンバーカード必須で数日かかる |
税務署の申告書等閲覧サービスでも申告内容を確認できますが、閲覧時に撮影した画像は、ファクタリング会社など第三者への提出用には利用できません。
このほか、納税証明書(e-Taxで書面交付を請求する場合、原則として1税目・1年度・1枚につき370円。2026年8月時点)が確定申告書の代わりの資料として使える場合もあります。「控えをなくしたから申し込めない」は思い込みです。
確定申告をしていない(無申告の)場合
正直にお伝えします。申告義務があるのに無申告の状態は、ファクタリング以前に税務上のリスクを抱えています。国税庁のタックスアンサーNo.2024によると、税務調査の事前通知前に自主的に期限後申告した場合、無申告加算税は原則として納付すべき税額の5%です。
ただし、法定申告期限から1か月以内に自主申告するなど一定の要件を満たすと、無申告加算税がかからない場合もあります。放置して調査を受けてからでは、負担が重くなる可能性があります。
無申告のまま使える業者を探すより、期限後申告で土台を整えるほうが先です。申告書が揃えば、融資や補助金など資金調達の選択肢そのものが広がります。急がば回れ、です。
一人親方のファクタリングで必要になる書類一覧
では、実際に何を用意すればいいのか。書類を役割ごとに整理します。
基本の3点セット(本人確認書類・請求書・通帳や入出金明細)
ほとんどの会社で共通して求められるのは、次の3点です。
| 書類 | 何のために必要か |
|---|---|
| 本人確認書類(運転免許証など) | 申込者本人であることの確認 |
| 売却したい売掛金の請求書 | 買い取る債権の内容・金額・支払期日の確認 |
| 通帳のコピーや入出金明細 | 元請からの過去の入金実績で、取引の実在を確認 |
通帳コピーは「その元請と継続的に取引し、実際に入金されている」ことを示す、いちばん説得力のある証拠です。ネットバンクの入出金明細で代替できる会社もあります。
追加で求められることがある書類
会社や買取金額によっては、確定申告書のほかに開業届の控え、印鑑証明書、納税証明書などを求められる場合があります。揃わない書類があるなら申込前に問い合わせておくと、審査の途中で止まる事態を避けられます。
建設業ならではの代替書類(注文書・工事請負契約書)
見落とされがちですが、建設業には取引の実在を示す書類が豊富にあります。注文書・注文請書・工事請負契約書・出来高調書などです。
確定申告書を出せない場合でも、これらと元請とのやり取りの記録(メールや入金履歴)が、仕事の実在と継続性を示す材料になります。書類仕事は面倒でも、注文書や契約書を保管しておく習慣が、いざというときの資金調達力につながります。


確定申告書なしで使う場合の注意点と会社の選び方
最後に、書類が少ない状態で申し込むからこそ注意したいポイントを3つ挙げます。
「審査なし」「書類不要」を強調する業者には警戒する
金融庁は「ファクタリングの利用に関する注意喚起」で、買取代金が債権額に比べて著しく低額な場合や、元請が支払わないときに利用者が買い戻す義務を負う契約は、実質的な貸付けにあたり得ると警告しています。貸金業の登録なしにこうした取引を業として行えば、刑事罰の対象です。
「審査なし」「書類不要」という広告だけで安全性を判断しないでください。買取代金が著しく低くないか、買戻義務や自己資金による補填義務がないかを契約書で確認しましょう。給料を前借りする形の給与ファクタリングも貸金業に該当する別物で、避けるのが賢明です。


手数料の目安と少額・オンライン対応の確認
手数料の一般的な目安は、2社間で8〜18%程度、3社間で5〜10%程度とされています。この水準から大きく外れる条件を提示されたら、その場で契約しないでください。
あわせて確認したいのは、10万円前後の少額に対応しているか、オンラインで完結できるか、手数料の上限を明示しているかの3点です。同じ請求書でも会社によって条件は変わるので、最低2社から見積もりを取って比べましょう。
元請に知られたくない場合は2社間を選ぶ
ファクタリングには、通常は申込時に元請への通知や承諾を必要としない2社間と、元請の承諾を得る3社間があります。ただし、2社間でも契約内容や回収状況によって後から通知される可能性があり、秘密が必ず守られるとは限りません。
元請との関係を考えると2社間を選びたくなりますが、手数料は3社間より高め。信頼関係が強い元請なら、承諾を得て手数料を抑える3社間も選択肢になります。



どちらを選ぶ場合も、償還請求権なし(ノンリコース。元請が倒産しても自分に返金義務が生じない契約)が基本です。契約前に必ず確認してください。
よくある質問(FAQ)
Q: 開業1年目でまだ確定申告をしていなくても利用できますか?
利用できる可能性があります。初回の申告前は確定申告書が存在しないのが当然なので、提出を必須としない会社を選び、請求書・注文書・入金実績で事業の実在を示しましょう。
Q: 白色申告でもファクタリングを利用できますか?
青色・白色のどちらでも申し込める会社はあります。ただし、必要書類や審査上の扱いは会社ごとに異なるため、申込前に確認してください。審査では元請の信用力や売掛金の実在性なども確認されます。
Q: 確定申告書は何年分求められますか?
求められる場合は直近1〜3年分が一般的です。直近3年分(令和2年分以降)なら、マイナンバーカードがあれば国税庁の申告書等情報取得サービスで無料で再取得できます。
Q: 元請にファクタリングの利用を知られませんか?
2社間ファクタリングは、通常、申込時に元請への通知や承諾を必要としません。ただし、契約内容や回収状況によって後から通知される可能性があります。手数料も3社間より高めになるため、費用とのバランスで判断してください。
Q: ファクタリングの手数料は確定申告でどう処理しますか?
手数料は「売上債権売却損」として経費計上するのが一般的です。会計ソフトにない場合は支払手数料などで処理されることもあります。迷ったら税理士に確認してください。
まとめ
一人親方は確定申告書なしでもファクタリングを利用できる可能性があります。審査の中心は元請の信用力と売掛金の実在性であり、提出を必須としない会社もあるためです。
ただし、確定申告書を出せたほうが条件は良くなりやすいのも事実です。控えをなくしただけなら国税庁のサービスで無料で再取得できますし、無申告なら期限後申告を済ませるのが先決です。そして「審査なし」「書類不要」を強調する業者には、偽装ファクタリングの危険が潜んでいます。
いちばん避けたいのは、書類が揃わないことを理由に、条件の悪い業者へ流れてしまうことです。請求書・通帳・注文書と、使える書類を揃えたうえで複数社を比較する。この基本を守れば、ファクタリングは入金までの長い待ち時間を埋める心強い手段になります。











