銀行からの新規融資は止まった。それでも給料日と仕入れの支払いは待ってくれない。
民事再生を申し立てた経営者の方から、私がコンサルタント時代に何度も伺った悩みです。
申し遅れました。中小企業向けの金融コンサルティング会社で資金繰り改善やファクタリング導入支援を担当し、現在は金融分野の記事を執筆している山田麻里と申します。
結論からお伝えすると、民事再生中でもファクタリングを利用できる場合があります。借入ではなく売掛債権の譲渡として扱われるためです。ただし、監督委員の同意や裁判所の許可が必要なケースもあり、指定に反して進めると契約が原則として無効になるおそれがあります。
この記事では、利用できる条件と注意点を公的な情報をもとに整理しました。
【この記事の結論】民事再生中のファクタリングで押さえる4つのポイント
- 民事再生中でも利用できる可能性がありますが、ファクタリング会社の審査通過が必要です。
- 申し込む前に申立代理人の弁護士へ相談し、必要に応じて「監督委員の同意」や「裁判所の許可」を得てください。
- 審査では、信用力の高い売掛先・支払期日の近い債権を選び、請求書・契約書・過去の入金履歴を揃えることが重要です。
- 「民事再生中である事実の隠蔽」「二重譲渡」「著しく低い買取価格」「買戻し義務のある契約」は避けてください。


民事再生中でもファクタリングを利用できる場合がある
まず「なぜ使える余地があるのか」から確認しましょう。ファクタリングは債権譲渡であり、民事再生中の利用が一律に禁止されているわけではありません。
ファクタリングは借入ではなく売掛債権の売却
ファクタリングは、入金前の売掛金をファクタリング会社に買い取ってもらい、期日より早く資金化するサービスです。法律上は債権譲渡契約にあたり、お金を借りる行為ではありません。
ここが民事再生中の会社には大きな意味を持ちます。裁判所も通常再生を「事業を継続しながら、再生計画のとおりに債務を返済し、残りの債務の免除を受ける」手続きと説明しています(裁判所「通常再生」)。事業が続く以上、売掛金は日々発生します。それを売却して運転資金に変える道は残されている、というわけです。

審査で見られるのは自社ではなく売掛先の信用力
融資の審査では申込企業の返済能力が問われますが、ファクタリングの審査の中心は売掛先の信用力です。買い取った売掛金を支払うのは売掛先だからです。確認されるのは主に、売掛先の経営状態、売掛金が実在するか、支払期日までの日数の3点です。
ただし、民事再生中であることを隠して申し込むのはやめてください。申込時の告知事項や表明保証に反して事実を隠した場合は、契約解除や損害賠償などの問題につながる可能性があります。正直に伝えたうえで対応できる会社を探すほうが確実です。
2025年の民事再生法適用は285件。うち法人は60件
帝国データバンクの倒産集計2025年報によると、2025年の企業倒産は10,261件と12年ぶりに1万件を超え、うち民事再生法の適用は285件で前年から7.1%増えています。内訳は個人225件、法人60件です。
民事再生は事業の継続が前提の手続きです。だからこそ、手続き中の運転資金の確保が再建の成否を分けます。
民事再生中にファクタリングを利用できる条件
「使える可能性がある」と言っても、無条件ではありません。民事再生中ならではのハードルが2つあります。
監督委員の同意が必要になるケースが多い
監督委員は、裁判所が必要と認めるときに選任されます。東京地裁では、原則としてすべての再生債務者申立事件で監督委員を選任する運用です。民事再生法54条は、監督委員の同意がなければ再生債務者ができない行為を裁判所が指定できると定めています。指定された行為を同意なく行うと原則として無効ですが、その無効を善意の第三者に主張することはできません。
そして東京地裁の実務では、「債権の譲渡」がこの同意を要する行為に含まれるのが通例とされています。ファクタリングは売掛債権の譲渡そのものですから、実行前に監督委員の同意確認が必要と考えておくのが安全です。
裁判所の許可が求められる場合もある
もう1つの根拠が民事再生法41条です。裁判所は必要と認めるとき、財産の処分や借財などについて裁判所の許可を要すると定めています。許可が必要と指定された行為を無許可で行うと原則として無効ですが、その無効を善意の第三者に主張することはできません。
山田 麻里売掛債権の売却は「財産の処分」にあたり得ます。同意と許可のどちらの対象かは事案ごとに異なるため、自社のケースで何が指定されているかの確認から始めてください。
最初に相談すべきは申立代理人の弁護士
手順はシンプルです。
- 申立代理人の弁護士に、ファクタリングを検討している旨を相談する
- 弁護士を通じて、監督委員の同意や裁判所の許可が必要か確認する
- 必要な同意や許可を得てからファクタリング会社に申し込む
資金繰りが苦しいときほど、先に業者へ問い合わせたくなるものです。その気持ちはコンサルタント時代に痛いほど見てきました。それでも順番は守ってください。
必要な同意や許可を得ずに進めた債権譲渡は原則として無効になり得るうえ、監督委員や債権者の不信を招けば再生計画そのものに響きます。
【フェーズ別】申立て前・手続き中・認可後で変わる利用の可否
「民事再生中」と一口に言っても、今どの段階にいるかで注意点が変わります。
| 段階 | 主な注意点 | 相談先 |
|---|---|---|
| 申立て前 | 安値での債権売却はあとから取り消される可能性がある | 申立てを依頼する弁護士 |
| 申立て後〜手続き中 | 債権譲渡が要同意行為なら監督委員の事前同意が必要 | 申立代理人・監督委員 |
| 再生計画認可後 | 監督期間中は引き続き同意事項の確認が必要 | 申立代理人・監督委員 |
申立て前の駆け込み利用は「あとから取り消される」リスクがある
民事再生法には否認権という制度があります。債権者全体の利益を害する取引を、手続き開始後にさかのぼって取り消せる仕組みです。
申立て直前に額面より大幅に安い金額で売掛金を売却すると、会社の財産を不当に減らした行為とみなされ、否認の対象になる可能性があります。「申立て前に少しでも現金を」という駆け込み利用こそ、かえって再生の妨げになりかねません。
手続き開始後は必要な同意や許可を得たうえで利用する
開始決定後は、監督委員が選任され、債権譲渡が要同意行為に指定されている場合、実行前に同意が必要です。裁判所の許可が必要と指定されている場合は、その許可も得ます。必要な手続きを済ませ、事業継続に必要な資金調達だと認められれば、利用の道は開けます。
再生計画の認可後は通常の利用に近づく
監督委員が選任されている場合、再生計画の遂行時または認可決定の確定後3年が経過した時点で手続きが終結します。それまでは同意事項が残る場合があります。終結後は監督命令による同意事項は失効しますが、再生計画に基づく義務は計画どおり履行しなければなりません。自己判断せず、申立代理人に確認してください。
民事再生中のファクタリング審査に通るためのポイント
法律面をクリアしても、審査に通らなければ資金は調達できません。実務のコツを押さえましょう。
審査に通りやすくなる3つのポイント
- 上場企業や官公庁など、信用力の高い売掛先の債権を選ぶ
- 支払期日が近い売掛金を優先する
- 請求書・契約書・過去の入金履歴など、債権の実在を示す書類を揃える
審査の主役は売掛先です。自社の状況が厳しくても、確実に支払われる見込みの高い債権なら買い取ってもらえる可能性は十分にあります。
審査に落ちやすいケース
- 売掛先にも経営不安がある
- 同じ債権をほかでも売却している疑いがある(二重譲渡)
- 売掛金の実在を裏付ける書類が揃わない
落ちる理由の中心は債権の質です。「民事再生中だから落ちる」のではなく「債権に不安があるから落ちる」。この視点で手持ちの売掛金を見直してみてください。
2社間と3社間、民事再生中はどちらが現実的か
ファクタリングには、売掛先に通知しない2社間と、売掛先の承諾を得る3社間があります。
| 項目 | 2社間ファクタリング | 3社間ファクタリング |
|---|---|---|
| 売掛先への通知 | なし | あり(承諾が必要) |
| 手数料の目安 | 8〜20%程度 | 5〜10%程度 |
| 資金化までの速さ | 早い(最短即日) | 承諾手続きの分だけかかる |
手数料はいずれも一般的な目安です。再生手続開始の決定は官報に公告されます。ただし、売掛先が実際に事情を把握しているとは限りません。3社間ファクタリングを選ぶ際は、売掛先への説明方法を申立代理人と検討してください。説明に不安が残るなら2社間、ここは売掛先との関係次第と言えるでしょう。


民事再生中にファクタリングを使うときの注意点
最後に、再生中の会社だからこそ気をつけたい落とし穴を3つ挙げます。
相場より著しく安い買取価格は偽装ファクタリングを疑う
金融庁は「ファクタリングの利用に関する注意喚起」で、買取代金が債権額に比べて著しく低額な場合や、利用者が買い戻す義務を負う契約は、実質的な貸付けにあたり得ると警告しています。いわゆる偽装ファクタリングで、無登録業者との契約はヤミ金融被害と同じ構図になりかねません。



資金繰りに窮した会社ほど狙われやすいのが現実です。相場から外れた条件を提示されたら、即決せずに契約書を弁護士に見せてください。
額面から大幅に割り引いた売却は否認リスクにつながる
悪条件での契約は、被害に遭うだけでは終わりません。額面から大幅に割り引いた売却は、債権者を害する行為として否認される可能性もあります。適正な手数料水準の会社を選ぶことは、騙されないためだけでなく、自分の再生計画を守るためでもあります。複数社から見積もりを取って比べましょう。
DIPファイナンスなど他の資金調達手段も比較する
民事再生中の資金調達には、DIPファイナンス(再生手続き中の企業向け融資)という選択肢もあります。審査に時間はかかるものの、コストはファクタリングより低い傾向です。数日以内のつなぎ資金ならファクタリング、まとまった金額ならDIPファイナンス。申立代理人に相談しながら使い分けてください。
よくある質問(FAQ)
Q: 民事再生中であることはファクタリングの審査に影響しますか?
審査の中心は売掛先の信用力と売掛金の実在性のため、民事再生中であること自体で即否決とは限りません。事実を隠さず伝え、監督委員の同意を得てから申し込むことが前提です。
Q: 監督委員に無断でファクタリングを利用したらどうなりますか?
債権譲渡が同意を要する行為に指定されている場合、同意のない譲渡は原則として無効です。ただし、その無効を善意の第三者に主張することはできません(民事再生法54条)。必ず申立代理人の弁護士経由で事前に確認してください。
Q: 個人事業主の個人再生中でもファクタリングは使えますか?
事業継続に必要な範囲なら利用の余地はあります。ただし個人再生は手続きの建付けが法人の民事再生と異なるため、やはり申立代理人への事前相談が必要です。
Q: 売掛先が民事再生を申し立てた場合、その売掛金は売却できますか?
難しいケースが多いです。審査の中心は売掛先の信用力なので、買取を断られるか大幅に減額される可能性が高いです。
Q: 銀行のリスケ中でもファクタリングは利用できますか?
利用できる可能性があります。リスケ(返済条件の変更)中は新規融資が難しくなりますが、ファクタリングは借入ではありません。監督委員の同意といった手続きも不要です。
まとめ
民事再生中でもファクタリングは利用できる可能性があります。借入ではなく売掛債権の売却であり、審査の中心が売掛先の信用力にあるためです。
ただし監督委員の同意や裁判所の許可が必要になる場合があり、指定に反して進めた譲渡は原則として無効になり得ます。申立て前の安値売却には否認リスクがあります。債権額に比べて著しく低い買取代金や、売主に買戻しを求める契約には偽装ファクタリングのリスクがあります。段階ごとに落とし穴も違います。
まずは申立代理人の弁護士に相談し、監督委員の同意を確認する。そのうえで複数のファクタリング会社を比較する。この順番さえ守れば、ファクタリングは再建を支える現実的な選択肢になります。事業を続けると決めたのなら、使える手段は正しく使っていきましょう。











